近年、新しい薬が開発され、その有効性が認められるなど、精神障害全体では薬物療法は飛躍的に進歩しています。PTSD患者の場合はどうなのか、その現状を紹介します。
◎PTSDへの薬物治療の歴史◎
PTSDは、限界を超えた強烈なストレスが、体内で化学反応を引き起こすことから発症するという説があります。わかりやすい例を言うと、うつ病患者が脳神経伝達物質のバランスを崩すことから発症した場合。本人の意思とは関係のないところで、生理学的な変化が起こっていることが原因なので、そのバランスを整える薬を投与することは理論上は正しい方向性ですし、実際の臨床データでもその有効性は認められています。
では、PTSDに関して、実際の薬物療法の現状はどうなっているのか? PTSDが病気として認定されたのが1980年のことですから、その後の約30年間で、抗うつ薬や抗精神病薬などさまざまな薬が試されてきました。が、不安症状や不眠への対処療法でしかなかったというのが実情のようです。つまり、PTSDという病気のの根本治療としては、薬物療法の有効性は認められていなかったということです。
◎PTSDに高い効果を発揮する新薬◎
近年、うつ病研究から開発されたSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)という種類に分類される薬(製薬会社により、SSRIの中にも特徴・効果が異なります)があります。これは、前述した“脳内神経伝達物質であるセロトニン”にのみ働きかけるという特徴を持ち、うつ病治療では高い臨床結果を残しています。
PTSD患者に、このSSRIを投与したところ、症状全般に高い治療成果が見られたうえ、不安傷害などPTSDに併発する病気にも高い効果が見られました。また、それまでの薬と違って、比較的副作用が少ないのも大きなメリットです。(副作用がまったくないわけではないので、医師に処方を求める場合は必ず確認したほうがいいですよ)
さらに画期的だったのは、対処療法的だったそれまでの薬と違い、SSRIにはPTSDという病気自体からの回復にも有効性があるのではないかとされている点です。
ところが、現時点の日本では、PTSDという病気に対しての保健治療が適用される薬はありません。つまり、患者さんは自費治療で高い薬代を負担しなければならないのです。うつ病治療においては、SSRIの服用が主流になってきていると聞きますし、PTSD治療にも最も効果が見られると一番奨励されている薬。しかも、服用しだしてから1年間以上の継続が望ましいとされているのに…。
このことを聞いた時は、怒りを覚えました。日本でPTSDという病気が認知されるようになって10年。まだまだ、病気に対して政府の理解は得られていないのだなぁと実感します。
ちなみに、『日本トラウマティック・ストレス学会』では、PTSDに対して保険適用薬がないことから、投薬治療の開始に対するガイドライン案を提案しています。
それは、「少なくとも、1か月以上にわたり具体的な改善がないまま、症状が持続する場合は、まず精神療法を行う。ただし、症状が重症で深刻、ほかに併発した精神障害がある、精神療法に効果が見られない、現在もストレスを受けている…という場合は薬剤の処方を推進」というものです。
◎その他の薬◎
SSRIの他にも、患者さんの症状によって、抗アドレナリン作動薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬、気分安定薬などを併用するケースも多いです。
ともあれ、治療薬の開発・研究だけでなく、保険適用の件を含めた服用時のサポートまで体勢が整うと良いのですが。